認知症の相続人がいるときの遺産分割と成年後見

認知症により意思能力を欠く相続人は、自ら遺産分割協議をすることができません。成年後見人による協議、遺産分割協議書への署名押印、法定相続分の確保、利益相反時の特別代理人選任について司法書士が解説します。

認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議

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認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議

(最終更新日:2026年8月25日)

遺産分割協議をするためには、遺産分割の内容とその法律上の結果を理解し、自分の意思に基づいて判断できる能力(意思能力)が必要です。

認知症により意思能力を欠いている相続人は、自ら遺産分割協議に参加することはできません。意思能力を欠いた状態で行った遺産分割協議は無効となります。

また、その相続人を除外して他の相続人だけで遺産分割協議をしたり、家族が本人に代わって遺産分割協議書へ署名押印したりすることもできません。この場合には、成年後見制度を利用し、家庭裁判所が選任した成年後見人が本人を代理して遺産分割協議に参加する必要があります。

なお、認知症と診断されていることだけを理由に、直ちに意思能力がないと判断されるわけではありません。しかし、認知症が進行し、遺産分割の内容や結果を理解できるかに疑問がある場合には、本人に署名押印を求めたまま手続きを進めるべきではありません。

1.認知症の相続人について成年後見人を選任する場合

2.成年後見人による遺産分割協議書への署名押印

3.成年被後見人の利益を守る遺産分割

4.特別代理人の選任が必要となる場合

5.遺産分割が終わっても成年後見は終了しない

1.認知症の相続人について成年後見人を選任する場合

法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つがあります。

このうち、精神上の障害により判断能力を欠いているのが通常の状態にある方については、家庭裁判所へ後見開始の審判を申し立てます。家庭裁判所が後見開始の審判をすると、本人は成年被後見人となり、成年後見人が選任されます。

成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為について代理権を有します。そのため、成年被後見人が相続人となっている場合には、成年後見人が本人を代理して遺産分割協議に参加します。

成年後見人の候補者として親族を推薦することはできますが、推薦した人が必ず選任されるわけではありません。本人の財産状況や親族関係、必要となる後見事務の内容などを考慮して、家庭裁判所が成年後見人を選任します。

2.成年後見人による遺産分割協議書への署名押印

成年後見人が成年被後見人を代理して遺産分割協議に参加した場合には、遺産分割協議書に成年被後見人と成年後見人の両者を表示し、代理関係が分かるようにします。

遺産分割協議書へ実際に署名押印するのは成年後見人です。成年後見人が実印を押印し、その印鑑証明書を添付します。また、成年後見人の代理権を証明するため、成年後見に関する登記事項証明書も添付します。

遺産分割協議書への記載は、次のようになります。

遺産分割協議書

被相続人 甲野太郎(令和○年○月○日死亡)

最後の本籍 千葉県松戸市松戸本町○番地

最後の住所 千葉県松戸市新松戸一丁目○番地

上記被相続人の遺産について、共同相続人間において遺産の分割について協議をした結果、次のとおり決定した。

1 甲野花子は次の不動産を取得する。

(不動産の表示 省略)

 以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、これを証するため本書を作成し、署名押印する。

令和8年○月○日

千葉県松戸市新松戸一丁目○番地

相続人 甲野 花子

上記成年後見人 甲野 一夫(実印)

千葉県松戸市松戸○番地

相続人 乙野 二朗(実印)

3.成年被後見人の利益を守る遺産分割

成年後見人は、成年被後見人の財産と利益を守る立場にあります。そのため、他の相続人の都合だけを優先し、成年被後見人が遺産を取得しない内容の遺産分割協議をすることはできません。

成年後見人が遺産分割協議をする場合には、原則として、成年被後見人の法定相続分を確保する必要があります。

成年被後見人の取得分が法定相続分を下回る場合には、それでも本人の利益に反しないといえる合理的な事情が必要です。単に「不動産を他の相続人の単独名義にしたい」という理由だけで、成年被後見人の取得分を少なくすることは困難です。

4.特別代理人の選任が必要となる場合

成年後見人と成年被後見人の利益が相反する行為については、成年後見人が本人を代理することはできません。この場合には、成年被後見人のために、家庭裁判所へ特別代理人選任の申立てをする必要があります。

たとえば、成年被後見人の子が成年後見人となっており、その成年被後見人と成年後見人が共同相続人として遺産分割協議をする場合には、両者の利益が相反します。この場合には、家庭裁判所が選任した特別代理人が、成年被後見人を代理して遺産分割協議に参加します。

ただし、成年後見監督人が選任されている場合には、成年後見監督人が成年被後見人を代理するため、特別代理人を選任する必要はありません。

特別代理人選任の手続きについては、「特別代理人の選任」のページで解説しています。

5.遺産分割が終わっても成年後見は終了しない

後見開始の審判は、遺産分割協議だけを目的として行われるものではありません。そのため、成年後見人が遺産分割協議を行い、相続登記や預貯金の相続手続きが完了しても、それだけで成年後見制度の利用が終了することはありません。

成年後見は、本人の判断能力が回復して後見開始の審判が取り消されるか、本人が死亡するまで継続します。成年後見人は、その間、本人の財産を管理し、家庭裁判所へ定期的に後見事務の報告をする必要があります。

なお、個々の成年後見人については、家庭裁判所の許可を得て辞任したり、解任または交代したりすることがありますが、その場合でも成年後見自体が終了するわけではありません。

したがって、遺産分割協議を進めるために後見開始の申立てを検討するときは、遺産分割後も継続して成年後見事務を行う必要があることを理解しておく必要があります。

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