遺産の形見分けは相続財産の処分・隠匿に該当するか
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遺産の形見分けは相続財産の処分・隠匿に該当するか
形見分けとは、故人が生前に使っていた物品を親族などに分けることです。相続人間で故人を偲ぶよすがとなる遺品を分配する、いわゆる形見分けは、相続財産の処分や隠匿に含まれないのが原則です。
まず、交換価値がない物、多額遺産中のわずかな物を分けることは相続財産の処分や隠匿には該当しません。しかし、一般経済価値を有する物は相続財産の処分であるとされ、衣類すべての持ち去りは形見分けを超えるとの裁判例があります。
相続財産である背広上下、冬オーバー、スプリングコート、時計、椅子等を相続人方に持ち帰り、または送付された。被相続人の相続財産は、不動産、商品、衣類等が相当多額にあった。僅かに形見の趣旨で上記の物品および位牌をわけてもらって持ち帰った行為は、民法921条1号本文の遺産の処分には該当しない(山口地方裁判所徳山支部昭和40年5月13日判決)。
上記の事例では、相続人と被相続人は夫婦ですが別居していました。被相続の財産は、その母および兄が管理していたため、相続人が管理、調査をすることはできませんでした。。このような状況で、相続人である妻が葬儀に参列した際に、相続財産中のわずかな物について形見分けを受けた行為が「相続財産の処分」に該当しないとされたものです。
相続人による遺品持ち帰りが、相続財産の隠匿に当たるとされた例
下記事例では、相続人である被相続人の母が、被相続人の相続財産である、衣服、靴、家具などのほとんど全てを持ち帰ったものです。
この行為が、相続人による遺品持ち帰りが、自分が相続財産を引き取らない限り、すべて廃棄されてしまうことになって忍びないという母親としての心情によったものであり、相続人が被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的を有していなかったとしても、民法921条3号の相続財産の隠匿に該当すると判断されました。
相続人が持ち帰った遺品の中には、新品同様の洋服や3着の毛皮が含まれており相当な量であった。洋服等は新品同様であっても古着としての交換価値しかないことを考慮してもなお、持ち帰った遺品は、一定の財産的価値を有していたと認めることができる。そして、相続人は、被相続人の遺品のほとんどすべてを持ち帰っているのであるから、被相続人の債権者等に対し相続財産の所在を不明にしているもの、すなわち相続財産の隠匿に当たるというほかなく、その持ち帰りの遺品の範囲と量からすると、客観的にみて、いわゆる形見分けを超えるものといわざるを得ない(東京地方裁判所平成12年3月21日判決)。
この判決では相続財産の隠匿について、下記のような判断をしています。相続財産の隠匿に該当するには、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識していることが必要とされています。
相続人が限定承認又は相続放棄をする一方で、相続財産の隠匿等の行為をした場合には、被相続人の債権者等の利害関係人が相続財産を把握できない等の不利益を被ることになってしまう。そこで、民法921条3号は、右のような相続人による被相続人の債権者等に対する背信的行為に関する民法上の一種の制裁として、相続人に単純承認の効果を発生させることとしたものである。
したがって、前条3号の規定する相続財産の「隠匿」とは、相続人が被相続人の債権者等にとって相続財産の全部又は一部について、その所在を不明にする行為をいうと解されるところ、相続人間で故人を偲ぶよすがとなる遺品を分配するいわゆる形見分けは含まれないものと解すべきである。
また、同号に該当するためには、その行為の結果、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識している必要があるが、必ずしも、被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的までも有している必要はないというべきである。
「相続放棄」の関連情報
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相続放棄ができるかの判断基準について解説をしています。
熟慮期間中に相続人が相続財産の状況を調査しても、相続の承認、放棄のいずれにするかを決定できない場合には、家庭裁判所に相続の承認・放棄の期間伸長の申立をすることができます。
・相続放棄の各種事例(3ヶ月経過後の申述が受理されるケース)
一見すると熟慮期間の3ヶ月間を経過しているように見える場合でも、相続開始の原因となるべき事実、自分が相続人となった事実を知った時によっては相続放棄の申述が受理されることもあります。
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