嫁に行ったら遺産相続権は無くなるのか?
(公開日:2014年1月14日、最終更新日:2024年9月19日)
この記事は、「嫁に行ったら遺産相続権は無くなるのか」について、高島司法書士事務所(千葉県松戸市)が解説しています。
結論から申し上げると、結婚して夫の苗字(姓)に変わったからといって、実の父母についての相続権が失われることはありません。結婚してもしなくても、苗字(姓)が変わってもそのままでも、実の親と子の間の相続関係に影響はないのです。
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結婚して嫁に行ったら実父母の相続権はなくなるのか
(質問)
女性がお嫁に行って苗字(姓)が変わったら、実家不動産や実父母の遺産を相続する権利は無くなるのでしょうか?
(回答)
勘違いされている人も多いようですが、結婚して夫の苗字(姓)を名乗ったとしても、実の父母についての遺産相続権が失われるなどということはありません。
「お嫁に行く」、「嫁入りする」などといった表現が今でも使われることがあります。しかし、実際には婚姻届を出す際、結婚後に「夫と妻どちらの姓(苗字)を使用するか」を選んでいるだけであって、どちらかの家に入るわけではありません。
結婚により、夫婦についての戸籍が新しくできるのであり、結婚相手の親の戸籍に入るのではないのです。したがって、結婚しても実の親子の関係には何ら変わりがありませんし、相続権にも影響がないのは当然です。
現在の法律(民法)では、子の相続権はすべて平等であり同一です。つまり、子供であれば、嫁に行った娘だろうが、家の跡取りとなる長男だろうが、遺産を相続する権利は相続分を含めて同じだということです。
長男が次男よりも相続分が多いこともありませんし、子が長男、長女、次男の3人だったとすれば、その相続分はそれぞれ3分の1ずつで全く同じであるわけです。
余談ですが、現在でも結婚した際には、妻が夫の苗字(姓)を名乗ることとする場合が多いです。そのため、結婚するときには、相手の家にお嫁に行くとか、嫁入りするというような表現が使われることがあるわけです。
しかしながら、結婚して、夫の苗字(姓)に変わったからといって、妻(嫁)が、義父母についての相続権を持つわけではないことにも注意が必要です。義父母の相続人になるのは、義父母(または、義父、義母のいずれか)と養子縁組をしている場合に限られます。
なお、令和元年7月1日に施行された民法改正により、相続人ではない被相続人の親族で、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした人(特別寄与者)は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができるようになりました(民法1050条)。
これにより、妻(嫁)が、夫の父や母の療養看護や介護をしていたようなときには、特別寄与料の支払いを受けられる場合があります。
特別の寄与の制度ができるまでは、嫁(子の配偶者)は義父母の相続人ではないため、いくら義父母のために尽くしたとしても、相続財産を受け取る権利は一切ありませんでした。それが、法改正によって、相続人でない親族も相続財産を取得できるようになったのです。
家とは何か(旧民法の名残り)
以下は、旧民法における家制度について簡単に解説しています。ここまでお読みいただき、「嫁に行っても相続権に変わりはない」との結論がわかれば十分かとは思いますが、なぜ、家(いえ)や、嫁(よめ)などの概念が今でも持ち出されるのか、興味があればお読みください。
そもそも、「家」という制度があったのは旧民法の時代の話であって、1947年(昭和22年)の民法改正によって廃止されています。家制度においては、戸主(こしゅ)が家督相続(かとくそうぞく)によりすべての遺産を相続しました。通常は長男が戸主となっていましたから、家を継ぐ長男がすべての遺産を相続するとの発想はここから来ているわけです。
旧民法の家制度においては、戸主以外の人には遺産相続権が無いのですから、男だろうが女だろうが、嫁に行こうが行くまいが関係ありません。また、家制度では、結婚すると相手方の一家の戸籍に入るのが通常でした。現在では一つの戸籍に入るのは親子二世代のみですが、かつては「家」単位に戸籍が作られていたからです。
そこで、夫の父親が戸主だったとすれば、その戸籍の中に子の妻として入るわけです。この仕組みであれば、たしかに「嫁に行く」という言葉がしっくりきます。しかし、現行の法律(戸籍法)では、結婚して婚姻届を提出すると、夫婦について新たに戸籍が作成されます。その際に、夫婦どちらの姓(名字)を使用するか選択するわけです。
現状では、夫の姓を名乗るケースの方が多いのはたしかですが、だからといって嫁に行ったという表現はふさわしくありません。姓は同じであっても新たな戸籍ができるのであり、あえて「家」という言葉を使うならば、結婚することで新たな家が誕生したというべきでしょう。
結局は、嫁に行ったからとか、長男だからといった考えは、すべて60年以上も前に廃止されている家制度を引きずっているだけなのです。年配の方の中には、その頃の感覚を今でも持っている方もいるでしょうが、現代の法律では何の根拠もないものだといえます。
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