自筆証書遺言による相続登記
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(公開日:2012年3月1日)
遺言書がある場合、遺言により「不動産を相続させる」とされた方が申請人となり、単独で不動産の名義変更(相続登記)をすることができます。つまり、他の共同相続人の同意や協力を得る必要は無く、したがって、遺産分割協議書の作成も不要だということです。
そのため、遺産分割協議において、相続人全員の合意を得るのに困難が予想される場合、遺言書を作成しておくのはトラブル回避のために大変有効な手段だといえます。
問題のある自筆証書遺言
法的に有効な遺言書があれば、上記のとおりスムーズに不動産の名義変更をすることが可能です。しかし、弁護士や司法書士などに相談することなく、被相続人がご自分で作成された遺言書(自筆証書遺言)では、書かれている内容に問題のあることが少なくありません。
まず、自筆証書遺言では、次のことを必ず守る必要があります。
1.全文を自筆にする
2.正確な作成日を書く
3.戸籍通りの正しい氏名を書く
4.印鑑を押す
上記を満たしていれば、遺言書としては法的に有効だということになります。
ところが、ここまではちゃんと出来ていても、相続させる財産の書き方に問題があることが多いのです。この場合、遺言書そのものは有効だったとしても、その遺言書を利用しての遺産相続手続き(名義変更など)が出来ない怖れがあります。
まず、「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻A(昭和○年○月○日生)に相続させる」というような書き方であれば問題が生じる余地は少ないでしょう。
しかし、特定の財産を相続させようとする場合には、その特定の仕方が重要です。とくに、不動産については原則として登記簿謄本(登記事項証明書)の記載と一致させる必要があるのですが、これが出来ていないケースが多いのです。
実際には、少しくらいの間違いがあっても登記申請は可能だと思われますが、どの不動産を誰に相続させるのかが不明確だとすれば問題です。最悪の場合、遺言書による相続登記ができず、他の共同相続人の協力を得て遺産分割協議書を作成しなければならないこともあります。
したがって、遺言書を作成する場合には、公正証書遺言にするか、自筆証書遺言であっても専門家の確認を受けることを強くお勧めしているのです。
以下は、自筆証書遺言による相続登記での特殊な事例についての解説です。自筆証書遺言についての基本的な解説は、下記のページをご覧ください
自筆証書遺言の書き方(高島司法書士事務所ホームページ)
自筆証書遺言への「不動産の表示」の記載について
遺言書の書き方に少々の問題があったとしても、相続登記をするときには遺言者は既にお亡くなりになっていますから、遺言書を書き直すことは不可能です。そこで、残された遺言書により何とか登記が出来ないかと検討することになるわけです。
今回ご紹介するのは、「相続させる」として遺言書に書いてある不動産の表示が、地番や家屋番号ではなく、住所になっていたものです。
具体的には「遺言者の家屋は甲に相続させる」とあり、「不動産の表示」として住所が書かれていました。さらに問題なのは、古いマンションであったために家屋番号と部屋番号が全く異なっていたことです。
実際の記載は次のような感じです。なお、ここで使用している住所は当事務所の所在地であり、家屋番号は架空のものです。
・登記簿謄本(登記事項証明書)記載の「不動産の表示」
所在 松戸市松戸1176番地の2
家屋番号 松戸1176番の2の15
・遺言書の記載
千葉県松戸市松戸1176番地の2 亀井ビル306号室
家屋番号にある1176番の2に続く「15」がこの部屋固有の番号なので、不動産を特定するには「松戸1176番の2の15」との記載がどうしても必要です。しかし、住所としての部屋番号は「306」となっています。
つまり、遺言書には「遺言者の所有する家屋 千葉県松戸市松戸1176番地の2 亀井ビル306号室 を甲に相続させる」と書いてあるのですが、これが「家屋番号 松戸1176番の2の15の区分建物」を指すのかが分からないのです。
せめて、所有者の住所が「松戸市松戸1176番地の2 亀井ビル306号室」であれば良かったのですが、登記されているのは旧住所でした。そのため、登記簿謄本(登記事項証明書)からは住所と家屋番号の同一性が全く伺えません。
それでも、遺言者が相続させたいのは、「家屋番号 松戸1176番の2の15の区分建物」であることは間違いないのですから、遺言書による相続登記を行いたい。
結果としては、相続開始時(死亡時)には、上記マンションの住所(松戸市松戸1176番地の2 亀井ビル306号室)に住民票を置いていたこと。さらに、固定資産評価証明書には、所有者の住所、家屋番号の両方が書かれていることなどから判断し、登記が受理されることになりました。
本件では、遺言書による登記が可能で、それに他の相続人が異議を述べることも無かったので一件落着でした。けれども、遺言者がその建物に住んでいなかったとすれば、上記とは違った結果になったかもしれません。
敷地権付き区分建物の土地はどうなるのか?
また、本件建物は、敷地権付き区分建物でしたが、遺言書では「遺言者の所有する家屋」としか書かれていませんでした。それでは、敷地である土地はどうなるのか?との疑問も生じる可能性もあるでしょう。
しかし、敷地権付き区分建物では、敷地利用権だけを分離処分することが禁止されているため、当然に、区分建物とその敷地権をまとめて相続させるとの意図だろうと判断されました。
遺言書の記載についての最高裁判所裁判例
今回のケースについては、最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決において、次のような判断がされているのも参考になると思われます。
「遺言書には,遺贈の目的として単に「不動産」と記載され,その所在場所として遺言者の住所が記載されているが,遺言者はその住所地にある土地及び建物を所有していたなど判示の事実関係の下においては,所在場所の記載が住居表示であることなどをもって同遺言書の記載を建物のみを遺贈する旨の意思を表示したものと解することはできない。」
判決理由の中に「遺言の意思解釈に当たっては、遺言書の記載に照らし、遺言者の真意を合理的に探究すべきところ」とあります。遺言者の真意を推察すれば、登記が受理されたのも妥当な結論だといえるでしょう。
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(最終更新日:2013年9月13日)
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