相続財産の処分と保存行為
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相続財産の処分と保存行為(相続放棄できるのか)
(最終更新日:2026年2月2日)
(質問)
母が亡くなった後、被相続人である母名義の銀行預金を解約し、解約金を母の入院費の支払いや葬儀費用の一部に充てました。こうした行為は相続財産の処分にあたるとされ、その後に相続放棄をすることはできないのでしょうか。
(回答)
相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、その相続人は単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号本文)。ただし、相続人は相続放棄をするまでは、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりません(民法918条)。
つまり、相続人には相続財産を管理する義務がありますが、保存行為については、単純承認をしたものとみなされる「処分行為」には該当しません(民法921条1号ただし書)。保存行為とは、財産の現状を維持する行為であり、典型例として、期限の到来した債務の弁済や、腐敗しやすい物の処分などが挙げられます。
民法918条(相続人による管理)
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
第921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条(短期賃貸借)に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
(2,3号は省略)
被相続人名義の銀行預金を解約し、入院費を支払うのは相続財産の処分にあたるか
「期限の到来した債務の弁済」は保存行為であるため、単純承認をしたものとみなされる処分行為には該当しません。生前の入院費は、被相続人自身が負担すべきものであり、相続開始時点で支払期限が到来しているものと判断できる場合には、その支払いは保存行為に当たるといえます。
したがって、被相続人名義の銀行預金を解約して入院費を支払ったとしても、直ちに相続財産の処分に該当するとまではいえないことになります。
相続財産を葬儀費用の支払いに充てた場合
被相続人の葬儀費用は、入院費とは異なり、被相続人自身が生前に支払うべき性質のものではありません。つまり、葬儀費用は一般に相続債務(被相続人の債務)には含まれないと整理されます。したがって、葬儀費用の支払い義務は、葬儀を執り行った相続人等に生じるものであり、相続財産から葬儀費用を支出することは相続財産の処分に当たるのではないか、という疑問も生じます。
もっとも、葬儀は人生最後の儀式として執り行われるもので、社会的儀式としての必要性が高いことなどから、被相続人に相続財産があるときは、それをもって葬儀費用に充当しても社会的見地から不当とはいえないとして、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」には当たらないとする裁判例があります(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)。
葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。
これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。
また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。
結論(要点)
- 被相続人名義の預金を解約したからといって、直ちに相続放棄ができなくなるとは限りません。ポイントは、その支出が相続財産の処分に当たるか、または保存行為に当たるかです。
- 期限の到来した債務(例:生前の入院費等)の支払いは、保存行為として整理できる場合があり、その場合は単純承認(法定単純承認)に当たらない可能性があります。
- 葬儀費用の支出についても、社会通念上相当な範囲であれば、相続財産の処分には当たらないとする裁判例があります。
- もっとも、支出の内容・金額・方法によっては「処分」と評価される余地もあるため、相続放棄を検討している場合は、支出前に専門家へ相談するのが安全です。
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